2025年度総会

講演会報告「現代社会が求めるグリーフケアとは」

1.開催概要

・日 時:2025年10月12日(日)13:45~15:00
・会 場:上智大学 2号館 5階 508室
・講 師:髙木 慶子(たかき よしこ)先生
    (上智大学グリーフケア研究所 名誉所長/全人力を磨く研究所 理事長)

2.講師紹介

 髙木慶子先生は、長年にわたりグリーフケア(悲嘆ケア)とスピリチュアルケアの実践・研究に
携わり、上智大学グリーフケア研究所の設立にも尽力された日本の第一人者です。カウンセラーと
して教育相談所の運営や、被災者・遺族支援、ターミナルケアなど幅広い領域で活動され、「全人
力を磨く研究所」理事長として、現在も人間の尊厳とケアの本質について発信を続けておられます。

3.講演の概要

 本講演では、AIや社会不安が広がる現代社会の中で、人が人を思いやる心=ケアの原点について、
髙木先生の豊富な経験をもとに語られました。先生は「ケアとは理屈ではなく、その時その場で相
手を丸ごと受けとめること」と述べられ、他者を思う“癖”を大切に育てることこそ、今の社会が
最も求めている力であると強調されました。

4.主な講演内容

・ 人を思う「癖」を持つことの大切さ
 人に対する思いやりや優しさは、特別な訓練で身につけるものではなく、日々の生活の中で自然
に育まれる「癖」であると先生は述べられました。現代社会では効率や合理性が優先され、人を思
うことが後回しになりがちですが、相手の存在をそのまま受け止める“習慣”が、ケアの基盤になる
と指摘されました。

・ AI時代と人間の尊厳
 AIが生成する偽情報が社会に混乱をもたらしている現状に触れ、「本物と偽物の区別がつかない
時代だからこそ、人間の尊厳が問われている」と述べられました。人間は「神の子」として尊い存
在であり、その尊厳を守るためには、自他の存在を大切にし、愛と信頼をもって関わることが重要
だと説かれました。

・ 喪失と悲嘆に寄り添うケア
 髙木先生は、ご自身のグリーフケアの実践を通して、「悲しみの形は一人ひとり違う」ことを繰
り返し強調されました。失ったものを取り戻すのではなく、悲嘆の中で生きる人の“存在そのもの”
を受けとめ、共にいる姿勢が最も大切だと語られました。
 福知山線事故の加害者・被害者双方へのケアや、遺族会での支援の事例を紹介され、「加害者も
深い苦しみを抱えている」「被害者だけが悲しむのではない」との言葉が印象的でした。また、喪
失を通して生まれる“他者への感謝”が、人と社会を結び直す力になると述べられました。

・ 認知症のケアと「共に生きる」姿勢
 神戸の修道院で、認知症のシスターたちと共に過ごす日々の中で、「おかえりなさい」「いって
らっしゃい」と交わす何気ない言葉のやり取りがお互いを支え合う大切なコミュニケーションであ
ると語られました。ケアとは“してあげること”ではなく、“共に生活すること”の中にあるという気
づきを共有されました。

・ 現代社会の不安と人間関係の希薄化
 戦争や自然災害、経済不安など、現代社会は常に不安要素に満ちています。先生は「私たちは皆、
すでに“負担(ストレス)を抱えた状態”にある」と述べられ、互いの弱さを認め合い、支え合う姿
勢こそが安心と希望を生むと語られました。
 また、公共の場での小さなトラブルを例に、私たちが日常的にどれほど“心の余裕”を失っている
かを振り返るよう促されました。

・ 「あなたがいてくれるから」――ケアの本質
 講演の終盤では、トリノオリンピックのフィギュアスケートで、荒川静香選手のエキシビション
にも使用された曲『You Raise Me Up』を紹介され、「あなたが励ましてくれるから私は強くなれ
る」「私以上の私になれる」という歌詞を通して、人が人を支える関係の尊さを伝えられました。
人は一人では生きられず、互いの存在に支えられてこそ成長できる、それがグリーフケアの核心で
あると締めくくられました。

5.まとめ

 髙木先生の講演は、宗教的な枠を超えて“人間としての在り方”を深く問いかける内容でした。
ケアとは特別な行為ではなく、日々の挨拶や気遣いといった小さな行動の積み重ねの中にあること、
そして「人を思う癖」を意識して育てていくことの大切さを改めて感じました。

 社会の変化が激しく、人と人との関係が希薄になりつつある今、他者への優しさや思いやりを持
ち続けることが、グリーフケアの実践であり、また私たち自身を支える生き方でもあるというメッ
セージが心に残りました。

 この講演会は、ケアに携わるすべての人にとって、「人を支えるとはどういうことか」を原点か
ら考える貴重な機会となりました。

※ 皆様からのアンケートの結果を髙木先生にお送りしたところ、次のメールをいただきました。

【髙木先生からのメール】

 この度は、大変にいろいろとご配慮を賜り、感謝いたしております。また、アンケートのまとめ
までいただき、ありがとうございました。皆様方のお心遣いに深く感謝いたしております。
 私のようなものへの優しいお心遣いに、皆様方のお心の内を知ることができとてもうれしく存じ
ております。そのお心で日々お過ごしいただきますよう
 私の方は深く神様にお祈り申し上げております。
くれぐれとも皆様方によろしくお伝えいただきますようお願い申し上げます。

 感謝のお祈りとともに
 高木慶子

                 報告者:上智社会福祉専門学校ソフィア会 会長 木下裕支